「〜少年たちの対決・第1部〜」

Dedicated to Mr. 猫GLOBEX

 

もうずいぶん前のことです。

僕の町は東京のベッドタウンで、人口もどんどん増えていて、まだ少子化なんて

話題にも上っていない時代でした。そして学校での多少のケンカざたも、いじめ

たのいじめられたのと親が駆け込んでくるようなこともなく、自主的に解決する

力もまだ残っていました。

これはそんな頃に僕の通う学校で起きた、少年たちの激しくも美しい闘いのお話

です・・・

 

 

第1話:決着のつけかたは・・・

 

僕の通ってるG小学校は運動部が盛んで、特にバレーボールとバスケットが強く

て、バスケットは部員も多く、6年生の僕でもレギュラーになれるとは限らない

んだ。そしてさほど大きくない体育館は、部活動の割当てでしばしばトラブルが

起きていた。

ある日いつものように、バレー部とバスケ部が体育館を2つに区切って練習して

いたけど、こっちが狭いの、あっちが広いのと、たちまちつかみあいのケンカに

なっちゃった・・・

 

騒ぎを聞いてやってきた体育のU先生は、やれやれまたか、というあきれたよう

な顔つきで言った。

 

「まったくお前らは・・・今度は何が原因なんだ?」

 

「バスケのやつらがこっちのコートの近くまで道具を置いたりするんです!」

 

「何言ってんだよ!もともとそっちが俺たちの方まで・・・」

 

「広さの問題はこないだ話し合ったばかりだろ・・・ようし、そんなにいがみ合

うんなら、いっそのこと決着をつけたらどうだ!勝ったほうは希望の広さを確保

できるってのはどうだ?何かいい勝負のつけ方はないかな・・・」

 

「へへ、バスケットで勝負しようぜ!」バスケ部のSくんが。

 

「ふざけんな、S!」

 

「お互い全然経験のないスポーツで対戦しないとな。それなら文句はないだろ。」

 

 

「経験のないスポーツって・・・何ですか?」

 

「・・・そうだな・・・じゃあボクシングで勝負しろ。勝ち負けがはっきりする

男のスポーツだからな!先生は昔選手だったから、レフリーをやってやる。」

 

生徒たちの間からざわめきが。

 

「え〜っ、ボクシング〜?何でそうなるんだよ〜・・・」

 

するとバレー部のYくんが腕組みして言った。

 

「いいじゃん!オレ、前からボクシングって、やってみたかったんだ!」

 

Yくんは6年生。バレー部のキャプテンで、うっかりすると男の子でも好きになっ

てしまうくらいの美男子・・・

 

「そうだな!オレもやるよ!バレー部のヤツなんかにデカイ顔させられねぇから

な!」

 

バスケ部の同い年のTくんが言い返す。Tくんも背が高くってすごくカッコイイ子

で、スポーツは万能な上にケンカも強いんだ・・・

 

「よし、それじゃ決まりだ。試合はあさっての放課後、バレー、バスケそれぞれ

5人づつ希望者を選んでおいてくれ。対戦はクジ引きで決める。わかったな!」

 

(なんか先生、ニコニコしてる・・・)

先生が行ってしまうと、それぞれの部員たちがまたボソボソ言いだした。

 

「何なんだよ、ボクシングなんて・・・」

 

僕がつぶやくと、Tくんがからかうように言った。

 

「ハハハ、なんだN、ビビったんだろ?Nは弱っちいからやらないよな?」

 

Tくん、バレー部の前で見栄を切った手前、変に強がってる・・・でも僕もそん

な風に言われると・・・

 

「なんだよT、バカにすんな!僕だってやってやるさ!」

 

なんて、つい言っちゃった・・・どうしよう・・・

 

いったいどうやって校長先生や教頭先生を説得したのか、次の日には剣道場にボ

クシングのリングが据え付けられていた。

 

Tくん、なぜかすごく張り切ってる・・・朝からシャドウボクシングの真似を結

構まじめにやってたり、僕に野球のミットを持たせてパンチを打ち込んでみたり・

・・

 

あっ、思い出した!Tくんのお兄さんって、たしか高校のボクシングの選手だっ

たんだ。Tくんはそれまでボクシングなんか興味なかったはずだけど、たぶんこ

んなことになっちゃったんで、あわててお兄さんにボクシングを習ったんだ・・・

 

Tくんは試合に出ることになっている僕や他の部員にも、受け売りの構えやパン

チの打ち方を指導していた。

 

Yくんの方はどうなんだろ・・・

偵察・・・なんてわけじゃないけど、Yくんのクラスを覗いたら・・・こっちも

やってた!体操のマットをまるめてサンドバッグみたいにして、Yくんがすごい

パンチを打ち込んでいる!Yくんって、カッコイイだけじゃなくって・・・

でも、あんなパンチで殴られたら死んじゃうよ・・・

 

これって・・・本気の試合になっちゃうのかな・・・?

 

授業が終わると、Tくんたちはすぐに剣道場に走っていって、据え付けてあるリ

ングを占拠した。そしてリングの上でスパーリングの真似事を始めた。

察知してやってきたバレー部のYくんたちが、口々に怒鳴った。

 

「なんだよT、俺たちにも使わせろ!」

 

「ふーんだ、早い者勝ちだぜ!別にリングがなくたって練習できるだろ!」

 

「何だとぉ!」

 

「いーじゃねぇかよ、どうせ明日には決着つくんだから!」

 

「くそぉ、絶対ブチのめしてやる・・・」

 

うわっ、大変なことになっちゃった・・・

 

(つづく)

第2話へ

読み物に戻る

トップページに戻る