「〜少年たちの対決・第1部〜」

Dedicated to Mr. 猫GLOBEX

 

第5話:決着

 

立ち上がったけど・・ヒザをがくがくさせているYくん・・・もうガードをする力も

ない・・・今度パンチを受けたら・・・Tくんの右腕が振り降ろされる!

 

バチーン!

非情な一撃がYくんの頭を吹き飛ばした!踏ん張ることもできず、そのままロープに

倒れこんで・・・

 

「ストップ!ロープダウンだ!」

 

ロープに引っ掛かって、リングサイド側に上体をダラリと投げ出しているYくん、鼻

血が口からはみだしたマウスピースを伝って流れ落ちている・・・口の中も切ったの

か・・・顔全体も腫れて・・・

憧れのYくんのあまりの悲惨な姿に、女の子たちは顔を覆って・・・すすり泣く声・・

・耐えられずに逃げ出す子も・・・

 

「・・・フォー、ファイブ・・・」

「う・・・う・・」

 

苦しそうな呻き声・・・でも、カウント6まで進んだところで、体を仰向けに起こし

た。そしてロープの弾力の助けを借りるようにして、何とか立ち上がった。先生のカ

ウントを手で制止して・・・でも、もう立っているのがやっと・・・体を小刻みに震

わせて、目もうつろに・・・

 

カーン!!

ああっ、第2ラウンド終了・・・Yくん生き延びた・・・

Yくんは、倒れそうになる体をバレー部員たちに支えられながら、やっとコーナーに

戻ることができた。

 

「次でぶっ倒してやるからな!」Tくん右手を突き出してKO宣言!

 

そうは言ったものの、自分も体力が限界なのをわかっているみたい・・・コーナーに

戻ってくると、顔をしかめて・・・本当につらそう・・・

 

そして・・・運命の第3ラウンド開始!

「あとたった2分だぞ!」お兄さんのゲキが飛ぶ。

「・・・・」僕はもう胸が詰まって・・・

 

2人はゆっくりとリング中央に進み出た。そう、最後の闘いに挑むために・・・

そして、もう作戦なんてない足を止めての打ち合いが始まった・・・1発1発、打た

れては返す応酬が続いてる・・・

 

みんな息をのんで、初秋の夕陽に照らされたリング上の壮絶な闘いを見守っている。

お互い学校でも群を抜いている意地の強さと負けず嫌い・・・一歩も引こうとしない

で殴り合ってる・・・どちらも同じような疲れ方で・・・もう連打をする力さえ・・・

Tくん鼻血がまた吹き出した・・・Yくんも鼻と口から激しく出血・・・

 

「Yーっ!いけいけーっ!」バレー部からすごい声援が!

「Tくーんっ、ガンバレーっ!」僕も思わず声援を・・・さっきまでは心配でしかた

がなかったのに・・・

 

バシッ!ビシッ!ガスッ!

乾いた音が剣道場に響いている・・・2人の短パンにも血が飛び散る!

 

「先生、もう試合を止めないと・・・2人とも血だらけですよ!」

 

誰かがリングサイドから叫んだ。

 

「確かにそうだが、あの2人はもう意地だけで闘っているんだ・・・判定なんて受け

入れないだろうさ・・・どっちかが立ち上がれなくなるまでやらないと、彼らが気が

済まないよ・・・」

 

もう誰も・・・この試合がバレー・バスケ両部の勢力争いの勝負だったことなんて、

忘れてるみたいだ・・・美少年たちが血まみれで殴り合う、その迫力と美しさに吸い

込まれて・・・

でも・・・・ついにそれが終わるときがきた!

Yくんは前のラウンドでひどく打たれたダメージがまだ・・・少しづつTくんに押され

始めた。Yくんは、いずれ打ち負けると悟ったのか、最後の攻撃に全てを賭けて・・・

 

「この野郎ーっ!!」

 

叫び声と共にYくんの、大振りだけど強烈なロングフックが・・・

Tくん、疲れてもうよけることもできない。顔面にまともに入って・・・

 

グシャッ!!・・・「ぶぐうっ・・・!」

 

Tくんマウスピースを吐き出して、Yくんに体をあずけるように・・・そのまま顔がY

くんの胸をズルズルとこするようにして、マットに崩れ落ちた!Yくんの胸と短パン

には真っ赤な血が軌跡を描いて・・・

Tくん、仰向けに倒れたまま・・・荒い息づかいが聞こえてくる。

ひどく腫れ上がった顔は血だらけ・・・でもその表情は、もう力が尽きたっていうか、

やるだけやったっていう、満足したような感じにさえ・・・

 

「・・・スリー、フォー、ファイブ・・・」

 

進むカウント・・・YくんもTくんがダウンした直後、ロープにもたれかかるように・・

・Yくんも限界だったんだ・・・

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「ああ・・・Tくん・・・」女の子たちの祈るようなつぶやきが・・・

「まだ終わってないぞっ!あきらめるな!立てーっ!」Tくんのお兄さんもマットを

バシバシ叩いて叫ぶ・・・

 

「ハァーッ、ハァーッ、・・・くっ・・・」

 

体を起こそうとするTくん・・・だけど、ヒジで上体を支えるのがやっと。そしてと

うとう・・・

テンカウント!カンカンカン!試合終了だ!

その音と同時にTくんは力が抜けたのか、再び仰向けに大の字に両手を投げ出して・・・

 

「勝者、赤コーナーYくん!!」

「やったーっ!!Yくん、すごいぞーっ!」

 

バレー部のコーナーから歓声が。

僕も言い知れない興奮で顔を紅潮させながらも、ほっとした気持ちが・・・試合開始

から10分に満たない時間なのに、ものすごく長い時間が経ったような気がする・・・

でもTくん、大丈夫かな・・・

 

U先生に抱きかかえられて、足を引きずりながらコーナーに戻ってきたTくん、無言で

うなだれたまま・・・

 

「ハーッ、ハーッ、ハ、ハ、ま・・負けちゃったよ・・・俺、もう・・・」

・・・ボロボロの顔に大粒の涙が・・・

「Tくん、すごかったよ!・・・負けちゃったけど・・・でも、どっちが勝ってもお

かしくなかったよ!」

 

慰めなんかじゃない・・・僕は心からTくんの闘いに胸を打たれていたんだ・・・そ

れでもTくんは、

 

「・・・く・・悔しいよ・・・・・せ、先生!もう一度やらせてください!」

「だめだ!負けたのは惜しかったが、勝負は勝負だ。男らしく受け入れろ。」

 

確かにU先生の言うとおり、もめごとの決着をつけるための試合だったんだから・・・

でも、バスケ部の子たちは誰も責めたりしない。それどころか、僕と同じように感動

しているみたい・・・

 

「僕、もう自分のことみたいに興奮しちゃって!・・・でも、短パン、血で汚れちゃっ

たね・・・」

「俺も・・・あんな殴り合いの最中なのに、何か不思議な感情が湧いてきて・・・何

て言ったらいいのかな・・・自分はここにいるんだ、闘ってるんだっていうような・・・」

「あっ、それ、ちょっとだけど僕もそんな感じしたよ!」

 

僕はTくんの気持ちがすごくよくわかってきた。感情の高ぶりを抑えられず、僕も涙

が・・・でも、それがボクシングの魔力だったっていうことに気がついたのは、しば

らく経ってからだった・・・

そう、その魔力に操られるように、その後の僕たちの身にはいろいろな出来事が・・・

 

(第1部・終わり)

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