第十一話「メインイベントその2」

四つん這いのダウンからロープをつかんで立ち上がったKくん…

試合開始の時、躍動していた白いハイソックスとシューズの長い脚

もう動かない…パンチも出ない…

必死にグローブを顔の前に固めて前かがみでガードしようとする…

相手の子はお構いなしに可愛いKくんの顔面をガードの上から打ち付ける!

観客から何ともいえない嫌な感じの歓声が上がる…

ヨロヨロと後退するKくん、たちまちロープに追い詰められる。

ガードの上から物凄い強烈なパンチの雨…

『何で、ストレートばかり打つんだ?』僕には分からなかった。

グロッキーのKくんにフックを食わせることは容易だろうし…

それに…さっき強烈なパンチでダウンさせたKくんのボディーはがら空きなのに…

見る見るうちにKくんのガードしている腕が赤く脹れ上がる…

「Kくん!脚!脚!動かして逃げて!!」いつのまにか僕は叫んでいた…

しかし、Kくんの脚は動かなかった、それにだんだんガードが下がる…

一体何発のストレートを…

そして、ついに相手の子のストレートがKくんの顔面を捉えた。

その一発の右ストレートでKくんの鼻から鮮血が…

ますます前かがみになるKくん…

相手の子はなぜかゆるい左右のフックを放つ…

面白いようにKくんの顔面を捉える…ダウン寸前のKくん。

「カンカンカンカン」ここで1Rの終了のゴングが鳴った。

Kくんをあざ笑うようにニヤリと笑ってコーナーに戻る相手の子…

Kくんは膝をガクガクさせて放心状態のような表情でコーナーに…

噴出した鼻血が早くも色白のKくんの胸、そして白いトランクスを赤く染めていた。

丸い椅子に腰を落としたKくん、苦しそうにマウスピースをニュッと…

コーチがそれを引っ張り出す、ビール瓶を口に突っ込まれうがい…

吐き出した水は血だらけだった…

Kくんの肩が苦しそうに上下する、「ハア、ハアッ」可愛いお口から息が漏れる。

僕はKくんにかける言葉が見当たらなかった…

観客はみんなコーナーの椅子でぐったりしているKくんの方ばかり見ている。

そして写真を…

Mがコーチに「もう無理ですよ!タオルですよ!」…するとコーチは激怒して

「うるさい!黙って応援しろ!」…

レフリーが近づいてKくんの顔を覗き込んだ。

コーチに「どうだ?」コーチはだまって両手を広げた。「???」

その意味はすぐにわかった。インターバルが長くなった。

Kくんの回復を待っていたのだ…

そしておもむろに2Rのゴングが打ち鳴らされた…

コーチに背中をたたかれたKくん、健気にもグローブをポンと合わせて

リングの真ん中に向かって行った。

近くのおじさんが「今日は最高だな!」と言うのが聞こえた…

『やっぱり!』手加減する相手、長いインターバルとカウント…

『僕とKくんのこれ、試合なんかじゃなくって…』

その通りの光景が目の前で展開されようとしていた。

      続く

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