夏の日の思い出

 

第三話  お祭り騒ぎの果てに

 

「あてててっ、痛いよ先生〜!!」

「もう、急に焼いたんぢゃろう?おえんよ、そんなんじゃあ」

意外と言えば意外だけど、力丸んちはお母さんが村で唯一のお医者さんで、

力丸んちからちょっと離れたところに診療所を開いている。

 

あれからみんなで海に飛び込んで、散々はしゃぎ回って、それから圭一んちで

スイカをごちそうになってから帰って、それから宿題と夕飯とお風呂終わって

アニメとドラマ見てから寝たんだけど、朝起きたらもう背中も肩も腕も真っ赤っかに

なっていて、慌てて放課後ここに来たんだけど・・・・・・。

 

午後の診察が始まる3時頃にはもう村のお年寄りが待ち合い室の黒いソファーに

ずらっと並んでいて、看護婦さんが

「こんにちわ。初めての人かな?」

とにっこり笑って質問してきた。

「あ、はい・・・・・」

「じゃ、保険証と、どこが調子悪いんか教えてね!」

こっちの人はとにかく明るくて、いつも物言いがハキハキしている。

ここの診療所は内科、小児科、心療内科、老人科、産婦人科を力丸の

母さんと看護婦さん二人だけで受け持っているみたいで、かなりの患者さんが

来ているみたいだ。

どおりでただの農家にしちゃあ力丸んちの部屋が豪華なのか分かったけど、

後から聞いた話じゃ、そういう訳で力丸んちの畑は両親が結婚してから

畑はほとんど、お父さんとお爺さんお婆さんだけでやっていける分だけで

売ってしまって、そのお金でここを建てたんだという。

 

にしても、力丸ってお母さん似だったんだ。

明日、逆にからかってやろうかな、学校で。

 

「で?東京からこっちきてすぐに、うちのチビに誘われて海に一日中?

おえんわそれじゃあ」

紺色の蓋の軟膏をペタペタと金属のへらで痛いところに塗ってくれて、何だか

ちょっと気持ちいい。

「ホント痛いんですよう、何とかしてください・・・・」

「ぢゃけん、何とかしようるが。にしても、アイツ、帰ったら大説教してやるんじゃから!

なあ、純君、あんたいじめられたりとかされたらすぐにココに言うて来るんよ?」

「あ、いや、そんなことは・・・・・」

僕は慌ててフォローした。

「ホンマに?かばってない?もう、アイツは昔からそうなんよ。相手の体力とか

気持ちとか全然考えられん大馬鹿じゃけん・・・・・・」

こうしてみると、本当に力丸のお母さんっていうのも分かる気がしてきた。

「じゃあ、ナイキサン出しとくわ。これ、副作用すごく少なくていいんよね〜。

ちゃんと決められた量飲むんよ?」

「はいっ!」

「うん、ええ返事じゃ!もしまだおかしいようだったら、また来られぇ」

にっこり笑って手を振る。

「はい、次、楠見さ〜ん」

 

にしても、昨日は本当にすごかった。

みんな、デニムの半ズボンのまま飛び込むから、真似したら、お母さんに

すごい怒られちゃった。

にしても、こっちきてちょっと自由な時間が増えて嬉しいな。

あっちじゃあ、四谷○塚に通ってたから、学校の宿題の他にもそっちの方が

忙しかったし、まあこっちに来ても通信添削のZ○とか中学からやらされるみたいだけど、

とりあえず私立の中学は遠くて受験しなくていいようになったから、ほっとしていると

言えばほっとしている。

だってさ、僕の成績じゃ、御三家は無理っぼいから○鴨か海○ぐらいを第一志望に、

なんて言われたんだけど、あんな難しいとこ、受けたって合格できるわけないじゃん。

そりゃ、そこそこのところは狙ってたけどさ。

「ただいま〜」

「お帰りなさい、純。で、先生どうだって?」

帰ると、丁度お隣から貰ったじゃが芋でお母さんがポテトサラダを作ってくれていて、

クーラーかけてるのに湯気がもわっとこっちまでかかってきた。

「うん、しばらくこっちに慣れるまでは外で遊ばない方がいいってさ」

「そう。じゃあ宿題済ませてよ。それと、課題、来てるわよ」

「あ、は〜い」

ちぇ、結局こっちに来てもそんなに大変さは変わらないか。

「ふう。こっちは物価が安いのはいいんだけど、公立も私立もろくなとこが

ないわね。国立の附属じゃあ抽選あるし、こっちは中学だけで高校はエスカレーターじゃ

ないし。愛媛のA学園は全寮制だけどお金かかっちゃうし・・・・いい?

こっちは東京と違って勉強の進み具合だってゆっくりなんだから、気を抜いちゃ

駄目よ?分かった?」

僕は返事もしないで2階に上がると、ごろんと転がって、力丸から読んどけって

漫画をぱらぱらとめくった。

 

夕飯が終わると、適当にアニメでも見ながらごろごろ。

後はほぼ眠くなるまで勉強が続く。

それが僕のいつもの生活っぷり。

ちらっと見ると時計の針は11時を丁度過ぎていた。

さっき歯磨きしていたら、お父さんが『もう寝るんだぞ?』って声かけて

2階に上がってったから、二人とも先に寝ちゃってるってことは確認できていた。

・・・・・・決めた。

力丸に感想聞かれて、まだ見てないって言ったら『男失格』とまで言われた

あのビデオ。

今ならリビングには誰もしないし大丈夫だろう。

僕は、社会科の問題集と筆箱を言い訳の道具にしようと、こっそり足音をたてずに

下に降りると、静かに照明をつけた。

絨毯敷のリビングには、隅っこにゴムの木の大きな鉢植えが置いてあって、まん中の

ガラステーブルの向こうには、うちで一番大きな29型のテレビと、ラックの下に

ビデオデッキが一台。

僕はテーブルに積んであった新聞と問題集、授業用のノートを適当に広げて、さも

調べものをしているかのような格好にすると、おもむろにイヤフォンを端子に

差し込んでから、テレビの音量を1にまで下げた。

イヤフォンで聞いてたりなんかしたら、トイレとかでどっちかがここの前を

通った時も気がつかないまんまで大変なことになっちゃうもんね。

それから僕は、最初から巻き戻すと、それからどきどきしながら再生ボタンを押した・

・・・・。

 

45分、丁度小学校の授業と同じぐらいの時間が過ぎた。

僕は呆然としたまま、慌ててそれをまた、ノートと問題集の間に包むようにして

部屋に戻ると、そのままベッドに潜り込んだ。

「あっ・・・・・あんなことするの!?大人って・・・・」

ショックだった。

詳しくはいちいち口に出してなんかとても言えないけどさ、とにかく、そう、

僕にはとても思い付かないようなことが山程映ってたんだ。

とにかくあんなもの見ちゃった時は、もうおとなしくそのまま寝るしかない。

そう思って、僕は部屋の灯りを消した。

 

「オッス!」

力丸が声をかけてきた。

いつもの朝の教室なのに、僕は昨日のことが忘れられないまま、どう返事していいか

わからなかったが、しかし

「力丸、ちょっと」

と、廊下に連れ出すと

「あ、あのさぁ、例のビデオのコトなんだけど・・・・」

そう切り出すや否や、

「おっ、遂に見たのかよ、スッゲェだろ?な?ま〜、アレは俺も自信あったのよ〜、

都会育ちの純チャンでも満足だったろ?ん?」

とやけに嬉しそうだ。

あんまりはしゃぐから、みんな何のことだろうとこっち見てるじゃんか〜。

「ちょっと、矢島君、今日の掃除当番なんだけど・・・・」

そこに最悪なタイミングで学級委員の宮本さんが割り込んできた。

「るせぇな、あっち行ってろ邪魔だ!」

力丸が蹴る真似をして追い払っているのに、

「アンタに関係ないでしょー!アタシは今・・・・」

雰囲気読んでくれ、宮本さん・・・・・。

「うぜえって言ってんの!後にしろよ、あ・と・にっ!!」

露骨に嫌悪感を向ける力丸の口調も無視して

「放課後、体育倉庫の担当になったんだけどね〜、矢島君は・・・・」

あ〜、こういうタイプの女の子ってどこの学校にもいるんだ・・・・。

はっきり言ってかなり苦手だ、こういうの。

どうしてこう、その場の状況ってやつを無視して自分がいつ何を言いたいかを

最優先しちゃうかなあ?

というか、宮本さんわざとだろ!

「ああもううるせぇ!」

力丸がバッとスカートをめくると、さすがにこれには

「キャアアアアアア!!!」

とけたたましく叫んで後ろも見ないでほうほうのていで逃げて行った。

「とんだ邪魔が入ったな。純、よく覚えとけ。うるさい女はスカートめくるか

胸揉んだら一発で追い払えるんだぞ。男の場合は鼻か口を殴れ。すぐ静かになる」

とりあえず力丸の意にそぐわない言動は取らない方がいいみたいだ。

しかし可哀想なようだけど、宮本さんがけうざかったことは事実だ。

というかさっきの言動を見る限り、あれはわざととしか思えない。

でなければ相当頭が悪いに違いない。

だけど冷静になって考えてみれば、そんな『スカートめくり』で追い払うだけの

価値のある話を僕らはしているのかどうなのかもよくわからない。

「で、どうだったんだ?」

「う・・・ん。何か・・・・・その・・・・・・」

どうだった、なんて聞かれて具体的に感想言えるかよ!

「最高だったろ!」

「あ、うん!!」

こっちが言いにくいのが分かってくれてるんだ・・・。

「うっひゃひゃひゃっ!!いやあ、趣味合うじゃ〜ん!!ええっ、兄弟!」

「あっ・・・・あはは・・・・」

こっちもどうリアクションしていいかわかんないけど、取りあえず笑顔だけは

作っておかないと・・・・。

気を使っていいのか悪いのか本当わかんないやこいつ。

「よしよし、じゃあまたスッゲェのあったら回してやるよ!でさ・・・・」

内緒でされた質問に

「りっ・・・・力丸の馬鹿っ!!」

「あ〜っ、馬鹿とは何だよ馬鹿とはっ!ちょっと待てよ!!」

 

でも、話はそこからだったんだ。

家に帰ると、お母さんがすごい恐い顔をして、

「純。ちょっと台所にいらっしゃい」

「えっ?」

テーブルの上にあったのは、力丸から貰ったビデオテープ。

「今日お部屋掃除してたら机の引き出しから出てきたの。どういうことなのこれは」

「えっと・・・・そのぉ・・・・・」

どうして勝手に部屋に入って引き出しまで開けてるんだよ!

とか言っても小学生だから、ここでキレでもご飯とかお小遣いとかを盾に何も

言えなくされちゃうんだよな・・・・・・。

「西野さんとこの力丸君でしょ!!」

「えっ・・・・」

「こっちきて毎日遊びに来てるじゃない!全く、勉強の足引っ張るだけじゃなく

こんなことまで!ああ、こんなことならお父さんだけ単身赴任して貰えば

良かったわ!とにかく支度して」

「支度?」

「決まってるでしょ、これから西野さんにどういうつもりなのかはっきり説明

させて貰います!何なのかしら、まだ小学生だって言うのに・・・・」

やめてよ、そんなことしたら、折角力丸と仲良くなれたのに・・・!!

僕は強引に制服のまま、お母さんの軽4に乗せられて力丸の家にまで行った。

もう、それから色々あったんだけど、そんなことはもう言いたくもないし

思い出したくもない。それは分かってくれるよね?

 

今日ほどお母さんが大嫌いになったのは初めてだ。

塾以外の習い事させて貰えなかったり、電話で話し中に親子電話で割り込まれたり、

前の小学校でやってたさやかちゃんとの鍵付きの交換日記のバンドを布切り鋏で

バチッと切られて勝手に読まれて、それもこれも全部『親の務め』の一言。

僕は枕に顔を埋めて、思いきり泣いた。

どんなに大声出しても恥ずかしいなんていう気持ちはもうさらさらなかった。

だって、力丸に

「お前、明日っから分かってんだろうな!?」

なんて言われちゃったんだぞ!?

あれじゃ絶交ってことじゃんか・・・・・・。

僕、もう最低でもあと9ヶ月はクラスでひとりぼっちだ・・・・・・。

ううん、それより、あんなんだけど、力丸ともう遊べなくなったんだよ・・・・。

帰りがけ、明日は図鑑でしか見たことがないザリガニの一杯いるとこ見せてやるって

言われて、わくわくしていたのに、他にもいろんな約束していたのに全部ぶち壊しだ。

「ちょっと純、ご飯できたわよ!」

返事なんかしてやるもんか。

「聞こえてるの!?ご飯!」

階段の横の壁をドンドン叩いてさらにしつこくわめく。

馬鹿、無視されてることぐらい気づけよ。

「ちょっと降りて来なさい、ご飯って言ってるでしょう!」

階段を上がってドアノブをガチャガチャ回す。

「・・・・・・・・・もう要らない」

「要らない、じゃないでしょ、さっさと食べてちょうだい!片付かないでしょ!」

僕はもうひたすら無視してそのまま眠り、深夜にこっそりシャワー浴びてから、

台所のカロリーメイトをいくつか持って上がった。

 

次の朝。

あ、何だかもう、体がだるいや。

「ちょっと純、開けなさい!朝よ、学校!」

「・・・・・・・今日行きたくない」

「何言ってんの!昨日まで元気だったじゃない!ズル休みは駄目!」

だって本当に行きたくないんだもん・・・・・・。

「オイ恭子、よさないか、純、調子が・・・・」

「何よ、あなたいつだってそう、何かっていうといつもそうやって純を甘やかして

ばっかりだから・・・・」

折角の味方のお父さんももう鬱陶しくなったのか、そこで黙ってしまう。

いや、お父さんを責めることはもうしない。

いつも十分僕の味方をしていてくれているさ、さっきだって精一杯かばってくれた

んだろうし、僕らのために仕事行く寸前までギャアギャア言い合いすることないよ。

けど、奥から合鍵でドアを開けられて、追い出されるように僕は学校に出された。

こうなっては、登校しないわけにいかないじゃんか。

 

案の定、遅れて教室に入った力丸はいつもの挨拶はしなかった。

何だか心にぽっかり穴が空いたようで、たまらなく寂しかった。

けど、昨日の一件については、誰にも言ってないのか、力丸以外のみんなは

いつものように昼休みにドッジボールに誘ってくれた。

こんな男気見せるなんて、余計に絶交がつらくなるじゃんか・・・・。

でも、みんなから無視とかイジメとかされるのはもっと嫌だけど。

力丸がちょっかいかけない授業が延々と続く。

45分ってこんなに長かったの?

「おい、純、ちょっと来いよ」

「え・・・・・」

 

「決闘!?」

校舎裏で、だしぬけに力丸は言った。

「えっ・・・・あっ・・・?」

話の展開が全くつかめずにいると

「お前、このオトシマエはつけて貰うからな?」

恐いよ、だって、力丸って6年生って言っても通用するぐらいデカいのに、

目は怒ってんのに、口元はニヤニヤ楽しそうなんだもん・・・・・。

「お前、貸した漫画読んだよな?」

「うっ・・・・うん・・・・・」

「じゃ、アレでボクシングの基礎は分かってるよなあ?もし俺が12Rのうちにお前を

殺せなかったら、今回のコトは忘れてやらぁ!どうだ?」

そ、そんな、無茶苦茶だよ、だってみんなから聞いてるもん、力丸って、

中学生一人ボッコボコにブチのめしたことがあるって・・・・・。

「や・・・・やだよう、お願い、許して・・・・」

びびって涙で声が震えて・・・・・・。

「ざけんなよコラ!!」

力丸は胸ぐらを掴むと

「いいか、試合は来週金曜の放課後、海岸!逃げてみろ、ブッ殺す!試合まで、

俺んち去年の誕生日に買って貰ったサンドバッグあっから使っていいぞ。

じゃあな!!」

ドサッ、と放り投げられてから、起き上がろうとすると

「へっへっへ・・・・・やっと足付きのサンドバッグが調達できたぜえ・・・・

いいか?12R中にKOなんかしてみろ、そのブザマなカッコ、デジカメで

撮ってみんなにバラまいてやっからな!純ちゃ〜ん?」

「ひ・・・・・ひどいよぉ・・・・」

 

とにかくその日から、僕のトレーニングが始まった。

でもどうすりゃいいんだよ、あ、これは言いたくないんだけど、ボクって身長

140しかないし、体重だって35kgしかないから、喧嘩なんてしたことないんだよ。

だって負けるの分かってるもん。

どうやって殴ったらいいかもわかんないし。

体育だって、苦手じゃないけど、特別何かやっていたわけじゃないから、いつも

まん中ぐらいなんだよな。

とりあえず、僕は放課後、できるだけ走ったり、お小遣いで買った入門書でポーズな

んかを確認したりすることにした。

 

「えいっ、えいえいっ!!」

バンデージの代わりにタオルを巻いてサンドバッグを殴ってると

「ギャッハハハハ、何だよそのフォーム!!純、気合い入れないとマジ死ぬぜぇ?

俺、手加減しねぇからよ!どいてろ!!」

バッスゥン!!!

力丸のパンチはまるで音が違っていた。

「どうだ?男のパンチっていうのはこういうもんなんだよ!!」

歴然とした体力差。

だってさ、力丸って体重倍近く違うんだもん・・・・。

く・・・・くっそ〜・・・・・・・・。

でも、基礎トレーニングをやっているうちにもう木曜日。

だけど、こんな、ジムにも行かないですぐにすぐ強くなれたら誰も苦労しない

なんて、幼稚園の子でも分かるわけで。

いつも通りサンドバッグを殴りに力丸んちに行くと、力丸は縁側のガラス戸を開けた

まま、クーラーつけっぱなしでぐったり眠っていた。

ちぇ、僕が来てトレーニングしてんの見て笑うつもりだったけど、水泳で疲れて途中

で寝ちゃったな?

いい気なもんだよな、こっちは明日死ぬかも知れないっていうのに・・・・。

力丸ときたら、白いランニングシャツに真っ赤なトランクス一枚の下着姿で

だらしなく大の字で大口開けてがーがー寝てやがる。

横には飲みかけの麦茶。

どうしてやろうか、と思うけど、どうにもしようがないよな・・・・・・。

その時、僕はふと、いけないと分かりながらも、とんでもないコトを思い付いた。

体力を奪うなら色んな方法あるもんね・・・・・。

でも駄目だよ、そんなことしてるうちに起きたらホントに殺されちゃう・・・・・

けど、もう力丸は熟睡しているし、そもそもこんな試合、力丸に有利すぎるんだよ!

それからえっと、ボクシングってあんまり体重に差があったら試合できないことに

なってるんでしょ?

なのにあんなこと言うなんて、いくら何でも力丸だって悪いよ。

もう迷っている暇はなかった。

ちょっといろんな意味で抵抗あるけど、これぐらいのハンデぱ当然だよな!

僕は静かにガラス戸とカーテンを閉めて、行動に移した。

え?

何やってるかって?

これって、真似したら犯罪かも知れないし、第一ギリギリの手段なんで絶対

言えない。

 

「う、う〜・・・・・えっへへへへへ・・・・・・・」

 

チリンチリン、と風鈴の音が鳴っていた。

麦茶に浮かべてあった氷はもうすっかり溶けてて、完全に力丸の元気がなくなったの

を確認すると、

僕はまたこっそりと部屋を出た。

庭の真っ白いみかんの花が風で一面に散って落ちていた。

(4話に続く)

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